問題社員への対応Q&A
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対応Q&A
今回より社員の問題行動に焦点をあて、対応をみていきます。
今回は接客態度が悪い社員への対応です。
受付の社員の表情が暗い、
顧客が来ても顔をあげず応対する、
挨拶をしない、
言葉遣いが悪い社員がいる、
など外部からクレームが集中する社員がいます。
接客態度はその人の性格やこれまでの人生でのしつけ教育が影響するため、注意するだけで簡単に改善されるものでもないようです。
1.接遇教育の実施
サービス業では、お客様第一と考えなければなりません。
お客様が来店れて始めて事業がなりたつのです。したがって、顧客への接客は大変重要な要素です。
多くの会社関では「接遇研修」を実施し、改善に力を入れています。
しかし、接遇研修を行えば接遇態度が改善されるという単純なものではありません。
組織の体質になるまでに徹底して繰り返し、教育することが必要です。
そのためには、経営者、幹部が先頭に立ち、行動することが大切です。
社員には接遇の重要性を訴えながら、経営者、幹部が社員に対して挨拶しない、などはもっての他です。
2.注意指導を徹底
接遇の基本は、就業規則、服務規程、接遇マニュアルなどに定めます。
社内での具体的な定めがなく一般論だけですと、各社員の常識という非常にあいまいな基準で各自が判断することとなります。こうなるといい悪いは水掛け論になってしまいます。
したがって、当社の接遇、応対の基本について、具体的に誰もがわかるように定めて、明示することが必要となります。
また規程やマニュアルはあっても、実態としてまったく守られていないことがあります。この場合は、規程やマニュアルは有名無実化し、規範としての効力を失ってしまいます。
定めは皆が守るように日々徹底し、定めに違反した行為がある場合は、見てみぬ振りせず、「必ず」注意します。
ワンポイント
1.接遇研修を定期的に実施します。
2.接遇マニュアルやチェックリストを定め、日頃から職場で確認を繰り返します。
3.採用時にはっきりと接遇の考え方を伝えておきます。
4.ルールに違反した社員に対しては、放置せず、必ず注意します。
5.注意しても改善されない場合は、懲戒処分を行います。譴責など軽い処分から適用し、始末書を提出させます。改善が見込まれない場合は重い懲戒処分を適用します。
6.接遇の実態は内部からは感じ取れない部分もあるので、定期的に顧客アンケートなどにより客観的に把握、分析するとよいでしょう。
ピントきたら!?
ご相談ください・・。
◆ 北九州社会保険労務士 社会保険労務士法人九州人事マネジメント ◆
「上司を馬鹿にして指示命令に従わない」、「上司の指示を度々無視して自分勝手な行動を取る」、「上司に向かって大声で食ってかかる」などの行為を行う社員は、上司から見れば非常に扱いにくい、面倒な存在です。さらに周りの社員へも悪影響を与え、職場環境を乱し、士気を低下させることになります。
改善を求めることではなく、単なる反抗的な態度によりこのような状態が継続すると、組織としての機能が失われかねません。したがって、早い段階で対応する必要があります。
対応は次のステップで実施します。
1.問題となる言動があった場合には、上司は次の点に留意して口頭注意します。
(1) 時間をおかず直ちに注意する。
(2) 他の社員がいない場所に呼び注意する。
(3) 一方的に注意するのではなく、本人の言動について自身に考えさせる。
「今の言動については○○の点は問題だと思うが、あなたはどう考えるか・・・」
(4) 感情的にならずに冷静に対応する。
(5)本人が反省したら、反省文を提出させる。
2.同じことが二度繰り返された場合は、正式な懲戒処分の「譴責」として対応します。
譴責処分の場合は、懲戒処分として「文書」で通知します。また「始末書」を提出させます。
3.言動の程度が激しい場合は懲戒解雇することができる場合もあります。できるかどうかについては次のような判断が取られています。
(1)積極的意識的な反抗行為であること
一般的には単に指示命令に従わないような「不作為」を超えた「何らかの積極的な意図的な行為」をいい、指示されたその場で行われることが必要です。
(2)解雇することもやむを得ないと判断される場合に限ること
事実の内容、悪性の程度、職場に与えた影響、本人の反省の程度その他の諸般の事情を考慮したうえ、解雇もやむなしと認められることが必要です。
例えば「度重なる業務指示無視」の行動に関する上司の「注意・改善指導」に対して、「こんな上司の話は馬鹿馬鹿しくて聞いていられない」旨の発言をし、今後も指示には従わない旨を他の社員がいる前で大声で公言するような言動は、この場合にあたると考えられます。
ワンポイント
1.異常な言動、作業能率の低下、同僚へのけんか腰の言動、上司の命令に対して大声で食ってかかるなどの反抗的態度が、職場秩序の乱れ、士気の低下作業妨害が無視できない程度となれば懲戒解雇やむなしとなります。
2.最近では一つひとつの言動は個別に見れば比較的軽微でも、類似の言動が頻繁に繰り返された場合、本人がまじめに仕事をしていても上司に対する侮辱的言動で職場秩序を乱すと判断された事例もありますが、この場合は懲戒解雇でなく、軽い処分が妥当と考えられます。
3.社員がそのような言動を取る原因が上司の言動にある場合があります。社員だけを一方的に責める前に、上司として問題となる言動はなかったかどうか、冷静に振り返ることも忘れないようにしましょう。
◆ 北九州社会保険労務士 社会保険労務士法人九州人事マネジメント ◆
いじめは陰湿です。被害者である社員は自分がいじめられていることを認めず、公にしないことがほとんどです。いじめに耐えられなくなった時点で辞めていきます。いじめは巧妙に行われ、加害者である社員は上司や経営者の前ではいじめているそぶりを微塵も見せず、また自らは手を下さず、子分のような社員をうまく扇動し、実行させることもあります。
いじめは気が弱い社員や立場の弱い社員がターゲットとされるケースが多く見られます。また優秀な社員や上司がひいきにしている社員などに対する嫉妬心が原因となっていることもあります。加害者の社員がなぜいじめるのか理由は様々ですが、家庭環境、生活環境が背景にある重い人格障害が原因となっている例も見られます。
いじめを上司が職権を濫用して行う場合(本人は意識していなくても相手が威圧感を過度に感じる場合も含まれますので気の強い上司は要注意です。)はいわゆる「パワーハラスメント」になり、異性に対して行われると「セクシャルハラスメント」となります。いずれも就業規則の服務規律にはっきりと禁止を明示し、職場教育を徹底して行います。しかし、加害者の社員の性格に起因する場合は改善が難しいため、これまでの職務経歴を慎重に分析すること、採用時に適性検査をするなどして社員の性格を把握するようにすること、日常的な言動に細心の注意を払うことも重要となります。人員が不足している場合は、猫の手も借りたいという気持ちで採用してしまいますが、後々痛手を被ることがないように注意しましょう。
■ パワーハラスメントの定義
1.職権などのパワーを背景にして
2.本来業務の範疇を超えて
3.継続的に尊厳を傷つける言動を行い
4.就労者の働く環境を悪化させる、あるいは雇用不安を与えること
ワンポイント
1.社員に次のような兆候が見られたら注意しましょう。
(1)他の社員から話しかけられない、1人でいつも食事をしているなど孤立していている社員がいないか。
(2)職場の雰囲気に微妙な変化がないか。今まで元気だった社員が暗く、落ち込んでいないか。
(3)新規に採用した社員や優秀で期待していた社員が突然やめるようなことがないか。
(4)辞める社員の退職理由がはっきりしないことが多く見られないか(「家族の介護のため」などは真の退職理由でないケースが多い。)
2.パワーハラスメントには次のようなタイプがありますので、部下の日常行為を注視し
て未然に防止しましょう。
(1)攻撃型(人前で怒鳴る、机や書類をたたきながら話す、肉体的暴力を奮う)
(2)否定型(仕事のすべてを否定する、人格を否定する、能力を低く評価する)
(3)強要型(自分のやり方を無理やり押し付ける、責任をなすりつける、ルールに反したことを強要する)
(4)妨害型(仕事を与えない、情報を伝えない)
◆ 北九州社会保険労務士 社会保険労務士法人九州人事マネジメント ◆
このような場合によく目にするのが、見てみぬふりをしてそのような問題社員の行動を放置する対応です。「指導して恨まれたくない」「そのうち解決するだろう」「言っても代わらないだろう」と自分なりの理屈をつけ、目の前の問題から逃避してしまうのです。また、「AさんとBさんは相性が悪いなあ」など当事者の人間関係の問題に限定するようなのんきなことをいう経営者もいます。このような状態が長く続くと、そのような会社の姿勢に嫌気をさして他の社員が辞めていくことにつながる例も多く出ています。
1.協調性の欠如の判断
「業務の遂行に支障を来たしているかどうか」の1点に絞って客観的な判断をします。
したがって、他の社員が不満を漏らしているだけでは、その事実を示していることに
はなりません。「チーム内でのコミュニケーションが取れていなかったため、業務の処理が遅れた。」「顧客からクレームが発生した。」など具体的な事実をつかむようにします。
2.協調性の欠如とはみなされにくい事例
「親近感に欠け、単独で行動することが多い」、「飲み会、職場旅行などのイベントへ参加しない」などの行為レベルでは、協調性が欠け業務に支障が出ているレベルとは言えないでしょう。経営者の中には、「社員のためを思って企画しているのに何を思っているのか」など自分だけの思いが先走って当該社員に冷淡な態度を取ってしまい、社員の意欲をかえって失わせるような事例もありますので、協調性を間違って解釈しないように注意しましょう。
3.対応
(1)指導
チームプレーで協力することの必要性、協調性の欠如したどのような職務行動や態度がどのような業務上の支障を来たしているかを、具体的に当人に説明し、改善を促します。
(2)退職勧奨・解雇
大きな事業所であれば配置転換等も可能ですが、小規模の診療所では配置転換はまず不可能です。上記のような指導を繰り返し徹底したにもかかわらず、態度が改まらない場合は解雇もやむを得ないこととなります。ひとりの社員が会社全体の業務や秩序を壊すことは早期に解消しなければなりません。その時は果断に決断をすることが大切です。
ワンポイント
(解雇するための判断ポイント)
(1) 比較的少人数でチームワークや共同作業が不可欠な仕事を行う場合
(2) 協調性の欠如によって、職場の秩序が 侵害されたと認められる場合
(3) 問題社員の協調性に欠ける言動が本人の性格などを原因としているため、注意
や指導よっても改善される見込みがないこと(不可能であると考えられること)
(4) チームワークを必要としない職場への配置転換や職務変更を検討する余地がな
いこと
「協調性」は職場において重要な項目です。採用選考時は能力や資格などに注目しがちですが、業務を遂行するため際には円滑な人間関係は不可欠です。採用時あるいは試用期間中にしっかりと見極めることが大切です。
◆ 北九州社会保険労務士 社会保険労務士法人九州人事マネジメント ◆
社外の人に会社の悪口、不平不満を言いふらす社員がいると、そのことが社外に広まり、風評により会社の信用が悪化しかねない問題を含みます。当の社員からすると、深刻に考えずついつい親密な人に対して愚痴をこぼしただけのことでしかないのかもしれませんが、会社にとっては簡単にはすまされる問題ではありません。また、悪質な事例では、「当社は経営的に危ないので早く取引をやめたほうがいいですよ。」など悪意のうわさを広め、本人はさっさと退職してしまうという悪質な事例もあります。
1.基本的な考え方
そもそも会社の悪口を言う行為は、言論表現活動の自由の観点から、懲戒処分の対象となりうるかどうかを慎重に検討しなければなりません。言論自由を十分尊重した上で、会社の経営の円滑な運営に支障を来たす恐れがある場合などには、企業秩序維持のため、このような発言を規制の対象とし、懲戒処分をすることは当然許されると考えられます。
しかしながら、いきなり懲戒解雇にすることは、一般的には難しいと考えられます。通常は譴責など軽い処分を課し、本人の反省を促すことから始めることになります。懲戒解雇は、社員の言動が原因で明らかに収益が減少し、大きな損害が発生した場合に限られます。
2.対応
(1)服務規律として明示
このようなことを未然に防ぐためにも、就業規則あるいは服務規律などの中に、社外に対して会社に関することを口外しないことを明記し、日頃から徹底して教育しておくことが大切です。
(2)懲戒処分の明確化
また、懲戒規定の中に当該行為が懲戒処分の対象となることを明確に規定します。
ワンポイント
1.社員の不満の原因を知り、取り除く懲戒処分を検討する上で、なぜそのように会社の悪口を言いふらすのか当該社員の言い分をよく聞いて見ることが必要です。言い分にそれなりの理がある場合は、会社としても改善に取り組むことが大切です。
2.その上で厳重に注意し、それでも態度が改められず、同じことが繰り返される場合は、懲戒処分を行うようにします。
3.懲戒解雇とすることが可能な場合は、当該社員の言動が原因で収益が激減するなど、損害が発生したことが明らかな場合に限られます。
◆ 北九州社会保険労務士 社会保険労務士法人九州人事マネジメント ◆
最近では仕事のストレスなどからうつ病になるような事例が多く見られるようになりました。精神的疾患(本人や家族に自覚がなく行動からそうではないかと推測されるケースが多い)により、職場の人間関係(コミュニケーション)が壊れたり、不定期な欠勤が繰り返されるなどの状況が見られる場合、辞めてもらうことは可能でしょうか。
1.精神的疾患も病気である
精神的疾患も病気です。したがってその対応については、その他病気と同じように取
り扱います。主治医の診断で長期の自宅療養や入院が必要であれば、就業規則の休職制度による対応をすることとなります。休職制度がない場合は、主治医の診断書を基にして必要な対応を検討します。
主治医の診断書の内容について、医院から一方的に問い合わせることができません。本人の同意を得た上で、診断書の内容について問い合わせをし、場合によっては面談(三者面談が望ましい)により確認を取った上で、今後の対応を検討することが望まれます。
2.対応の進めかた
(1)相談に乗る
本人と状況について話し合い、相談に乗ります。臨床心理士など専門家のカウンセリングや医師の診断を受けることを勧めます。本人との話し合いが困難な場合は、身元保証人、配偶者、両親などを交えて話し合いを行います。
(2)業務命令で医師の受診を命令する
本人がどうしても医師の受診を受けないような場合は、業務命令として医師の受診を命ずることが考えられます。そのためには、就業規則に医院が業務命令による受診指示を出すことがあり、社員はその命令を誠実に遵守する義務があることを定めておき、社員に周知していることが必要です。
(3)医師の受診を行わない場合
どうしても医師の受診を受けない場合は、退職勧奨、解雇を考える必要も出てき
ます。ただし受診しないから退職勧奨や解雇ということはなく、具体的な勤務実態や言動(症状、程度、職務ないし職場に与える影響、回復の可否など)に照らして解雇もやむを得ないとされる状況にあることが必要です。その場合は「普通解雇」に該当するということになります。
ワンポイント
1.精神的疾患であることだけを理由に解雇することはできません。他の身体的な疾患の
場合と同様に取り扱うことが必要です。
2.まずは相談に乗り医師の診断を受けるように説得します。
3.本人が納得しない場合は家族の協力を取り付けます。
4.業務命令の受診は就業規則の根拠が必要です。ただし本人が納得しない場合に業務
命令で無理やり受診させることは避け、家族の協力などを取り付け、本人を説得する努力を続けることが望まれます。
5.就業規則の休職に関する規定を見直し、いざというときに困ることがないようにしっかりと準備しておきましょう。
◆ 北九州社会保険労務士 社会保険労務士法人九州人事マネジメント ◆
最近はサラ金などに多額の借金を抱えて返済が滞り、会社にまで取り立ての電話がかかってくるようなことも聞かれるようになりました。電話が頻繁にかかると周囲の社員にまで迷惑をかけることとなり、会社としてこのような金銭トラブルに巻き込まれたくないため、退職勧奨や解雇したいのだがという相談も寄せられことが増えてきました。
1.サラ金に多重債務があることで懲戒処分ができるか
多重債務を抱えているということは、私生活上のトラブルにすぎませんので、懲戒処分を行うことはできません。一方で、自己管理能力の欠如が著しく役職者としての適性がないと判断し「人事権」に基づいて役職者の役職をはずす(降職)ことは行うことは可能と考えられます。
2.職場にまで借金返済の督促の電話がかかることを理由に解雇できるか
その社員の勤務に特に問題がなく、職務を滞りなく遂行している限りは、原則として解雇できません。サラ金から取り立ての電話が頻繁にかかってきて、周囲の社員に迷惑をかけたとしても、それはサラ金業者の行為に問題があるのであって、社員には責任がありません。しかし、本人自身仕事が手につかない、欠勤が頻繁にある、同僚に借金を申し込みトラブルになるというような状況になれば私的な問題として見過ごすわけにはいきませんので本人に勤務態度などについて改善を注意、指導します。それでも改善されない場合は譴責など軽い処分から適用を検討します。十分な労務の提供がないと判断される場合には解雇もありうると考えられます。
ワンポイント
借金を理由にいきなり「解雇」とすることは問題があります。
1.まずは本人から事情をよく聞く
プライバシーに係る問題ですが、本人から事情をできるだけ詳しく聞き、実態把握をした上で相談に乗ります。事情を話さないと「解雇」せざるを得ないようなニュアンスの発言は厳に慎むことが大切です。
2.業者に対しては法律違反行為を抗議する
サラ金業者が会社に押しかけてくる、深夜 早朝に電話をかけてくる、暴力的な態度を見せることなどは、貸金業の規制等に関する法律や通達で「違法」とされています。(人を脅迫しまたはその私生活もしくは平穏を害するような言動により、その者を困惑させてはならないとしています。)まず、業者にそのことをきちんと伝えるようにしてください。目に余る行為が続く場合は、弁護士など専門家に相談し対応してください。
◆ 北九州社会保険労務士 社会保険労務士法人九州人事マネジメント ◆
会社所の近くに引越しをしたのに転居の届け出を行わず、引越し前の高い通勤手当を受給し続けることは通勤手当の不正受給となります。しかし、社員は、少しでも給与の手取りを増やしたいというような軽い気持ちで、「不正受給」しているという意識が希薄な場合が多いようです。
1.通勤手当の基準の明確化
そもそも通勤手当の支給基準が明確でなければ「不正受給」を判断すること自体が不可能となります。まずは通勤手当の合理的な支給基準を明確にすることが必要です。一般的には公共交通機関を利用する場合、自家用車を利用する場合が考えられます。それぞれの支給基準を明確にします。他に徒歩・自転車等で通勤する場合もありますが、徒歩・自転車については実費が発生しないため支給する必要性は少ないと考えられます。
2.通勤手当の不正受給のパターン
主な不正受給事例としては次のようなものがあります。
(1) 複数の駅から通勤可能である場合に、実際に利用している駅ではなく、通勤手当が高くなる駅を届出ている。
(2) あえて遠回りまたは高額となる公共交通機関を利用すると届け出て、実際は近道または低額の公共交通機関を利用する。
(3) 公共交通機関の乗継がないのに、乗り継ぎをするように届け出ている。
(4) 公共交通機関を利用すると届け出ているにもかかわらず、実際はバイクや自転車を利用したり徒歩で通勤したりする。
(5) 届け出ている住所には居住しておらず、届出より距離の近い別の場所(例えば同棲先など)から毎日出勤している。
(6) 近くに引っ越したにもかかわらず、住所変更届を行わず、従来の高い通勤手当を受給し続ける。
3.不正受給に対する対応
(1)事実の確認
上記不正行為の摘発については大半が偶然による自然発覚などであり、効果的といえる方法はなかなかありません。したがって上記行為に該当する行為は「不正行為」であるということを明確に知らしめることで抑止力を働かせることが重要です。またうわさなどで情報が入った場合は放置せず、本人に間違いないかどうかの事実確認を確実に行うことが大切です。
(2)返還請求
不正行為が発覚し、事実であった場合は本人に不正請求額の返還請求を行います。返還請求は過去10年遡って行うことが可能です(民法167条1項)が、労基法上の通常の賃金が2年の時効であることとのバランスも考え、会社として何年遡って請求するのかルールを決めておくほうがよいでしょう。
(3)懲戒処分
不正受給額を返還したからといって、不正受給の事実が消えるわけではありません。虚偽の届出により不正受給した社員に対するペナルティを科し、また職場内ルールの徹底を図り、職場の規律を保持するためにも、就業規則の懲戒処分の規定に基づき、不正の内容の程度に応じて懲戒処分を行わなければなりません。悪質な事例を除けば、譴責や減給などの処分が妥当と考えられます。
ワンポイント
不正受給を防衛するため次のような手段が考えられます。
(1) 本人申請の金額や距離を鵜呑みにせず、必ずチェックする。距離についてはネット検索が可能であるため、必ず行う。
(2) 定期券のコピー提出を義務付ける。(定期券の現物を会社が支給するには労働組合と労働協約を結ぶ必要があるため、労働組合のない企業の場合はできません。)
(3) 不正行為が発覚した場合の返還請求期間、懲戒処分の内容などを告知する。
◆ 北九州社会保険労務士 社会保険労務士法人九州人事マネジメント ◆
会社に何の連絡もなしに欠勤が続き、会社から自宅に電話をしても連絡がつかない場合、どう対応したらよいでしょうか。
1.突然失踪した社員を懲戒解雇できるか
懲戒解雇は、会社の社員に対する労働契約を終了させる意思表示です。意思表示を直接伝えた時点で効力を生じることとなります。しかし、失踪し行方不明の場合は相手に直接伝えることができません。懲戒解雇通知の自宅への郵送や直接自宅を訪問してポストに入れるような方法では、相手が失踪し自宅に不在の場合には一般的に意思表示が到達したとはみなされません。
民法第98条では、社員の所在を知ることができないときは、公示送達の方法による意思表示を規定しています。その場合は、簡易裁判所に申し立て、裁判所の掲示場に掲示され、官報および新聞に少なくとも1回掲載されることが必要となります。この手続を経れば、最後の掲載から2週間を経過したときに解雇の意思表示が到達したとみなされることになります。
2.解雇予告手当の支払い
即時解雇するためには解雇予告手当の支払いが必要となります。解雇予告手当の支払は失踪者本人に対して支払いをしなければなりなせん。配偶者等の親族が受領することでは支払いをしたことにはなりません。解釈例規では次のような方法が必要とされています。(昭63.3.14 基発150号)
(1)郵送等の手段により社員あてに発送を行い、この解雇予告手当が社員の生活の本拠
に到達したとき。なお、この場合、直接社員本人の受領すると否と、また社員の在
否には関係がない。
(2)社員に解雇予告手当を支払う旨通知した場合については、その支払日を指定し、近日に本人不参のときはその指定日、また支払日を指定しないで本人不参のときは社員の通常出頭し得る日。
給与の指定口座に振り込む方法について言及されていないため、この方法には疑問の余地がありますが、現実的には解雇予告手当を給与の指定口座に振り込むことで可能と考えます。
3.解雇予告手当を支払わない場合
解雇予告手当を支払わなかった場合は、どうなるでしょうか。最高裁判所の判例では、解雇予告手当の支払いをしないで解雇の通知をした場合、会社が即時解雇を固執する趣旨でない限り、通知後30日の期間を経過したときに、解雇の効力が生じるとされています。(細谷服装事件 最高裁二小 昭35.3.11判決)
4.実務での対応
失踪者への懲戒解雇はこのように種々の問題が生じます。したがって、就業規則に「2週間以上無断欠勤が続いた場合は当然退職とする」と規定し、退職として取り扱うことができるようにしておくことが大切です。
◆ 北九州社会保険労務士 社会保険労務士法人九州人事マネジメント ◆
不注意で高額な設備機器の操作を誤り、損壊したり、また営業社で外勤時に会社の車両をぶつけてしまう社員がいます。このような社員に対してはどのような対応が必要でしょうか。
1.懲戒処分
(1)懲戒規定の明示
まず、そのような行為があってはならないことを明確にするために、就業規則の懲
戒関連規定に、「故意または重大な過失により、什器備品、機械器具その他会社の施設
物品を損傷または紛失し、もしくは取り扱いをおろそかにしたとき」などと規定して
します。採用時には社員が守る服務規律として必ず説明をします。程度にもよります
が「軽微な過失」について懲戒処分とするのは少し重い処分と考えられますが、懲戒
処分する場合は「譴責程度」に留めることが妥当です。
(2)ルールの明確化
社内の規定やマニュアルに違反した職務行動が原因となる場合や居眠りなどは、重大な過失と考えられます。しかし重大な過失というためには、設備機器の取り扱いルールを明確にし、マニュアルなどで明文化することが必要です。また、マニュアル等に基づいて指導をしっかりと行うことも必要です。マニュアルはあるけれど誰も見ないし新人に対して説明もしていないという状態では、社員の過失を一方的に認定することは難しいと考えられますので注意してください。
そして損壊に至った原因を明確にし、その内容を懲戒規定にあてはめ、適切な処分を下します。
2.損害賠償の請求
懲戒処分とは別に修理費を負担させることは可能でしょうか。
社員は雇用契約上当然に医院の指示に従って業務を誠実に遂行する義務を負っています。注意散漫であったりルールを守らない行為は誠実な業務遂行とは言えません。そのような行為が原因で医院に損害を与えた場合は雇用契約上の「債務不履行」を理由とする損害賠償を請求することができます。
ただし損害額を全額負担させることは原則できません。使用者と社員との間での損害
の公平な負担という見地から検討する必要があります。
(1)軽微な過失
軽微な過失については一般的には会社は社員に対し損害賠償請求権を行使できないとされています。(名古屋地裁昭62.7.27判決)
(2)重大な過失
重大な過失の場合にも、「雇用関係における信義則および公平の見地」から一切の事情を斟酌して具体的に決すべきであるとされています。具体的な事例としては使用者と従業員の経済力、賠償の負担能力の格差が大きいこと、使用者が機械保険に加入するなどの損害負担軽減措置を講じていないことなどにかんがみ、従業員の賠償額は損害額の「4分の1程度」すべきであるとされたものがあります。
3.採用時に損害賠償額の誓約書を取ること
以上のようなリスクを回避する目的で、採用時に誓約書を取ることが考えられます。その場合に注意することは「一律賠償額を○○円負担する」などと具体的な金額をあらかじめ決めておくことは労働基準法に違反し無効だということです。そのため、誓約書の内容は実際に損害が生じた場合に負担するという趣旨にしておくことが必要です。
◆ 北九州社会保険労務士 社会保険労務士法人九州人事マネジメント ◆
飲食店に入ったら、そこの店員が会社の社員だった。お互いバツが悪い思いをすることは別にして、このような二重雇用は問題ないのでしょうか。
1.兼業についての基本的な考え方
公務員については職務専念義務や私企業からの隔離が法律で明文化されており、兼業が禁止されていますが、民間企業の場合は法律上の制約はありません。兼業が禁止されるかは就業規則に根拠を求めることとなります。
このことについて裁判所は、「就業時間外は本来労働者の自由な時間であることから、就業規則で兼業を全面的に禁止することは、特別の場合を除き、合理性を欠く。しかし、自由時間に適度な休養を取り精神的肉体的疲労を回復しなければ次の労働日に支障が生じることやいかがわしいアルバイトで企業の信用・対面を傷つけることもありうるので、企業が就業規則で兼業について、企業の承認制にすることは不当ではない」と判断しています。
2.基本的な対応
(1)就業規則への規定
上記1の裁判例などから、兼業は一切禁止するという就業規則の規定は問題があると考えられます。したがって兼業については会社の承認を必要とする趣旨の規定にすべきでしょう。具体的には「会社の承認を得ないで在籍のまま他に雇われたとき」は懲戒するというように規定することが一般的です。
(2)承認基準
兼業についても例えば農繁期に農業に従事する場合や、収入を補うために就業時間外にアルバイトを行う場合があります。また有給休暇期間中に就労することもあります。
したがってどのような場合に承認をするのかを明確にすることが必要です。承認となる事例としてはパートタイマーのように生活上の必要がある場合、他社や団体からの依頼に対し協力する必要がある場合等限定的に考えるべきでしょう。その場合でも基本的には競業する他企業への就業は禁止すべきと考えます。
また承認基準を定めたら社員に周知し、承認のない兼業、アルバイトは懲戒の対象となることを明示します。
(3)承認手続き
兼職を希望する場合は所定の申請書の提出を義務付けます。審査のうえ承認する場合は、所定の就業に支障を来たさないことや秘密保持について誓約書を取るようにします。
3.懲戒処分
承認のない無断アルバイトが発覚した場合、以下のような理由がある場合を除いて解雇は一般的に困難と考えられますので、解雇より軽い処分を検討します。
解雇の検討も可能な事例としては次のようなものが考えられます。
(1)兼業により精神的、肉体的疲労の回復が行われず本来の職務の責任ある遂行に支障が生じた。
(2)兼業する職種により会社の信用や体面が著しく傷つけられた。
(3)秘密保持義務が守られず、重要な秘密が流出した。
◆ 北九州社会保険労務士 社会保険労務士法人九州人事マネジメント ◆
会社にはバス通勤と届け出ていながら、実際には駐車場を借り自家用車で通勤していたものが、出勤途中に通勤災害にあった場合に、どのように対処すべきでしょうか。
1.通勤災害の基本的な考え方
労災保険の通勤災害の対象となるかどうかは、「合理的な経路」であるかないかにより判断されることとなります。
合理的な経路とは、通常は最も近い経路となりますが、空間的には最も近くても、その経路が混雑状況、交通制限や危険な道路状態などの事情により時間的に長くなってしまったりすることがあります。したがって、通勤届けとは違う抜け道を利用した場合でも合理的な経路として判断される場合もありえます。
本題のように、会社に届け出ている手段と異なる方法で通勤した場合についても、厚生労働省は「鉄道、バス等の公共交通機関を利用し、自家用車、自転車等を本来の用法に従って使用する場合、徒歩の場合等、通常用いられる交通方法は、当該労働者が平常用いているか否かにかかわらず一般的に合理的な方法と認められる。」(昭48.11.22基発644号)と説明しています。時々、「事業所に届け出ている手段と異なる方法で通勤した場合は労災の対象とはならない。」という発言を聞くことがありますが、それは誤りということとなります。
結論を言えば、合理的な経路であれば、会社に届け出ている手段と異なる方法で通勤した場合に交通事故にあって負傷したような場合は、労災の通勤災害に該当することとなります。
2.対応
上記のように労災の対象となることと、会社に届け出た手段と異なる方法で通勤することが問題とならないかということは別に考えなければなりません。
(1)就業規則の整備と正しい通勤届の徹底
届出と実態が異なっていることは一般企業や公務員にもよく見られることです。通勤災害が発生した場合に適切な対応がとれるように、服務規律、懲戒規定、給与規定など関連する規程を整備します。さらにその趣旨、内容を社員に周知するとともに、正しい届出の励行を指導することが大切です。
(2)懲戒処分
正しい届出がされていないことが発覚した場合には、背景の程度に応じて懲戒処分を検討します。
(3)その他
通勤途中であっても、私用のため経路から逸脱したり、中断した場合は、日常生活上必要な最小限度の行為以外は通勤災害の対象とならなくなりますので注意が必要です。
【日常生活上必要な行為例】
・日用品の購入、職業能力の開発向上に役立つ教育訓練、診療、選挙権行使、家族の介護(本年の改正で追加)など
◆ 北九州社会保険労務士 社会保険労務士法人九州人事マネジメント ◆
社内、社外を問わず、仕事やサービスの質を向上させ、顧客満足を高めるためには研修への取り組みは企業の重要な課題となっています。多くの企業では接遇研修などに貴重な時間と費用をかけ取り組んでいます。
研修は就業時間中に行うことができればよいのですが、就業時間中に行うと業務に支障がでるため、就業時間終了後に行うことが多いのが実情です。では、この研修については労働時間をはじめとして労務管理上どのように取り扱うことが必要でしょうか。
1.就業時間終了後の研修の参加を拒否した社員
(1)参加しない社員の取り扱い
研修への参加が義務付けられているのであれば、それは「業務」です。理由もなく欠席するというのであれば明白な労務提供の拒否となり、業務命令違反として懲戒処分の対象となります。ただし、所定労働時間外であれば社員にも予定や家庭の都合があります。したがって、直前になって研修を決定するようなことは避け、社員の都合を考慮しできるだけ早い段階で日程の調整を行うことが大切です。
またやむを得ない事情で研修へ参加ができなくなった場合は、懲戒処分とすることは厳しすぎる処分と考えられます。かといって何もしないと参加した社員からは不平不満が出たりします。(そもそも研修が自分自身の成長や能力向上ということを理解していればこのようなネガティブな発想や言動は出ないと思われますが、現実はそのような理想とは少し差があるようです。)したがって賞与や昇給の評価において研修への参加を加点評価項目などにするとよいでしょう。また、研修へ参加できないやむを得ない事情について説明した届出書類を提出させることが大切です。その際何でもかんでも理由になるのでは形式的なものになってしまいますので、やむを得ない事情と判断されるケースを事前に具体的に示しておくとよいでしょう。
(2)時間外手当の取り扱い
上記(1)にあるように業務として研修を位置づけ参加を義務付けるのであれば、当然「時間外勤務手当」の支払いを行わなければなりません。研修を義務付けているのに時間外勤務手当を支払っていなかったり、少額の研修手当を支給していたり、あるいは夜食を提供することでお茶をにごしている例を見聞きしますが、これらはすべて労働基準法上違法と考えられます。理由としては「社員自身のためになることだから」と言われることが多いのですがこれは虫のいい言い訳です。そうであれば「自由参加」にし、勉強したい社員に機会を与えるという趣旨にしないといけません。
最近の事例ではトヨタ自動車におけるQC活動が時間外労働として取り扱われるようになったことがマスコミで大きく取り上げられていました。参考になると思われます。
(3)自由参加の研修の場合の注意事項
研修が自由参加の場合は参加しない社員に対して不利益な取り扱いすることはできません。なぜならそのことが心理的に参加を半ば強制することにつながるからです。
不利益な取り扱いとしては次のようなことが考えられます。
・ 出席率や出席回数が少ないことを評価の査定において減点評価すること
・ 出席率や出席回数などを評価の査定において加点評価すること
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採用選考時に会社から「健康上問題はないか」との質問に対して、「問題なし」との回答があった社員について、採用後既往歴があったことが発覚した場合は、解雇は可能でしょうか。
1.採用の自由
会社は使用者として、「法律その他による特別の制限がない限り」、「契約の自由」「採
用の自由」を有しています。
(1)法律上の制限
黄犬契約(組合に加入せず、または脱退することを雇用条件とする契約)
男女の採用差別(男女雇用機会均等法5条)
身体障害者、知的障害者の雇用努力義務(障害者雇用促進法37条) など
(2)病歴を理由とする採用の拒否
病歴については、基本的には思想信条と同様、採用の自由をもとに採用を拒否できると考えられます。
しかし、最近の裁判例を見ると「B型肝炎ウイルスやHIVウイルスのキャリアであること」を理由とした採用拒否について、個人のプライバシー保護の観点から社員はそのような情報をみだりに取得されない権利を有するとされ、保護される重要な法益とされています。このような病歴について裁判例では、日常生活に制限を加える必要はなく、病状が安定していれば労働制限の必要はなく、労務提供への影響は薄いとしています。
今後は、「労務提供への影響が小さく、労働能力との関連性の薄い疾病」について
は、それへの罹患を理由に採用拒否することはその合理性を問われる恐れが高いと考える必要があります。
2.病歴の詐称と解雇の可否
(1)経歴詐称による懲戒解雇
経歴詐称とは、社員が会社に採用される際に提出する履歴書や面接において、学
歴、職歴、犯罪歴等を詐称し、または真実を秘匿することをいいます。
経歴詐称については、ほとんどの企業が就業規則において懲戒解雇事由として定めています。裁判においても「労働力評価に関わるだけではなく、企業秩序の維持にも関係する事項」であるとして、その詐称を理由とした懲戒解雇を有効としていますが、どのような経歴詐称でも懲戒解雇が可能であるのではなく、「重要な経歴」を詐称した場合であるされています。
(2)病歴詐称は経歴詐称となるか
病歴詐称が経歴詐称となるためには、(1)重大な疾病で、労働力評価や適正配置を誤らせるようなものであり、(2)そのような病歴を知っていたならば採用しなかったであろうといえるようなものであることが必要とされています。
社員の秘匿した病歴がこの要件に該当しない場合は、解雇は困難と考えられます。
病歴については、個人のプライバシーと病歴の業務への影響を十分検討しなければなりません。
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1.法定伝染病の場合
労働安全衛生規則第61条第1号において「病毒伝ぱのおそれのある伝染性の疾患にかかった者」については「その就業を禁止しなければならない」と定められています。したがって、会社はこの場合、基本的に就業禁止の措置をとる義務があります。
(1)病毒伝ぱのおそれのある伝染性の疾患
結核、梅毒、淋病、トラコーマ、流行性角膜炎
上記に準ずる伝染性疾患(感染症予防法18条)
一類、二類、三類感染症の患者、無症状病原体保有者
(2)会社の対応、処遇の取り扱い
(1) 出勤停止
業務命令として「出勤停止」を命じます。
出勤停止は、法令に基づく就業禁止・就業制限を遵守するための措置であるため、出勤停止により勤務不能となった期間については、原則として会社には「賃金」や「休業手当」を支払う義務はありません。
(2) 復職
社員情報の管理に万全の注意を払い、復職に際して職場に差別的な感情などが生じないように配慮します。
2.インフルエンザ等
インフルエンザ等(はしか、風疹、ノロウイルス等)は感染症予防法の分類上、5類
感染症と定義されているため、就業禁止の対象となるべき法定伝染病には該当しません。
したがって、強制的に就業禁止の措置を取ることができません。しかし、会社としては、
患者や他の社員への感染を拡大することを防がなければなりません。
(1)就業禁止の根拠
就業規則に定め、法律に基づかない根拠を明確にすることが必要です。
【規程例】
「職場の衛生管理上、有害と認められる場合は、就業を禁止することがある」
(2)会社の対応、処遇の取り扱い
就業規則の根拠規程を基に、就業禁止を命じます。
法的な根拠がないため、会社都合による休業になります。したがって、賃金を支払うか、最低でも休業手当(平均賃金の60%)の支払いが必要となります。
ポイント
法定伝染病とそれ以外では就業禁止の根拠及び賃金の支払いの取り扱いが違うので注意してください。
最近は世間では茶髪などは当たり前のようにみかけるようになっています。しかし、サービス業関係のではサービスの提供に身だしなみを厳しく制限することが多く見られます。「当社では髪を染めること、髭をはやすことは絶対に認めない」という社長もおられます。身だしなみについて、これからはどのように考えていけばよいのでしょう。
1.身だしなみ規制の原則
身だしなみはもともと個人の趣味・嗜好に関する事柄であり、自由であるものですが、会社がサービスの提供上から容姿、服装、頭髪などに関して、基準を定め、社員にそれに沿った職務遂行を求めることは可能と考えられます。
2.職場に必要な身だしなみ
サービス業関係では、サービスの提供のためには、(1)清潔感、(2)明るさ、(3)患者に不
快感を与えないことなどが求められます。したがって次のような事柄についての規制は一般的には是認されることだと考えます。
1.目立つ染髪、香水の着用、化粧の濃さ
2.ピアス、指輪などの宝飾着用
3.つめの長さ
4.男性の髭、長髪
3.具体的な対応
(1)身だしなみ規程の作成
身だしなみは個人の自由に属することと、個人の価値観には大きく差があることか
ら、「それぐらい常識で分かるだろう」は通用しないと考えることが必要です。
そのため、詳細な身だしなみのルールを「身だしなみ規程」として具体的に定めることが必要です。
(2)採用時に身だしなみのルール説明
採用「面接」時に身だしなみ規程の内容を具体的に説明します。規程に違反している状態が確認できるときは、はっきりと「髭は剃ることはできますか」など質問し、本人の意思を確認します。
誓約書の中にも明記し、採用時に提出してもらいます。
(3)身だしなみ違反
身だしなみに違反した場合は懲戒処分 となることを就業規則に明示し、実際の
違反事例に対しては規定に基づいた厳正な処分を行います。ただし、1回目はけん責からが妥当と考えられます。
ポイント
身だしなみの考え方については、世代間のギャップもありますので、社員に十分説明し理解を求めましょう。委員会などで基準を検討させることもよいでしょう。
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社員の資質向上とモチベーション向上を目的として、MBOなどの専門資格取得費用を援助する制度を検討、導入している企業があります。資格によっては長期間に渡り短期の国内・国外留学のような形で職場を離れることが必要な場合もあります。また教育機関への入学金や受講料が多額になることもあり、このような負担を会社で援助し、社員が取り組みやすい環境を作って行こうということです。
しかし、例えば入学金や受講料を会社が支払い、研修受講中の給料も勤務として扱い全額支給したにもかかわらず、資格取得後本人が退職を申し出るようなことがあった場合、会社としてはすべての投資が「無」に帰してしまうこととなります。会社側からすれば何と恩知らずな破廉恥な行為だということになるでしょう。このような社員にはどう対応すべきでしょうか。
1.費用の返還請求
労働基準法第16条は、労働契約の不履行について違約金を定めたり、損害賠償額を予定する契約を禁止しています。会社がいったん支出した費用について、資格取得後一定期間勤務しない場合は、損害賠償としてその費用を支払わせるという事前の約束は、労働基準法違反第16条に違反し「無効」とされています。したがって返還を求めることができません。
2.懲戒処分
会社の支援制度を利用した後一定期間勤務せずに退職する行為は、信義誠実の原
則に違反し恩知らずな不徳な行為だということで、このような行為を懲戒処分の対象として就業規則に定めることはどうでしょう。そもそも憲法は職業選択の自由を定めており、このような規定は憲法の趣旨を阻害する内容で、この規定自体違法性が高いと考えられます。せいぜい競業避止義務で制約することまでは考えられますが、それも実際には他の会社への就職を制限するようなことは難しいと考えられます。
3.具体的な対応
(1)費用は「貸与」であることを明確にする
費用援助が金銭消費貸借であって、原則として返済をすることが必要ですが、資格取得後一定期間勤務後は返済を免除するという内容の場合は、労働基準法第16条には抵触しないと考えられています。
したがって、以下のことを規程、契約で明確にしておきます。
・ 金銭消費貸借であること
・ 貸付金の返済方法
・ 返済期日
・ 免除の事由
具体的には、返済期日は資格取得後2年経過後、2年経過前の退職は期限の利益を喪失し直ちに一括返済する、2年間勤務した場合には返済を免除するなどを定めます。
退職時の一括返済を退職金と相殺するためには、労働基準法第24条の賃金控除協定、
貸し付け契約の中で返済方法として退職金からの控除が定められていることが必要です。
(2)懲罰ではなく魅力ある職場でつなぎとめ
やはり大切なことは、返済方法や懲罰的なことなど恐怖感による退職抑制ではなく、共感できる経営理念に基づいた魅力ある職場や働きやすい労働環境を作り上げ、社員がこれからもずっとここで働きたいと思わせる努力をすることではないかと考えます。
◆ 北九州社会保険労務士 社会保険労務士法人九州人事マネジメント ◆
社員の親睦を目的として親睦会を設立し、社員の給与から親睦会費を天引きすることはよく見られます。採用時に簡単に説明し給与から天引き処理をしたところ、社員から給与天引きに同意していないので、天引き分の返還を求められた場合は返還に応じなければならないのでしょうか。
1.親睦会
親睦会は事業所とは別の、社員による任意団体です。会員である社員が規約を定め、会費や支出について自主的に決定し、決算も示す必要があります。
親睦会に加入するかどうかは社員の任意になります。その設立の趣旨から社員全員が加入しているのが一般的ですが、本人が加入したくないという意思表示をすれば強制加入はさせられないこととなります。
したがって、社員を採用した場合は親族会の趣旨、会費についてきちんと説明し、年間の活動内容、会費の給与天引きなどを了承してもらうことが必要です。
2.給与天引きの条件 - 賃金控除に関する労使協定
会費を給与から控除するためには「法律に根拠がある」か「賃金控除に関する労使協
定」が必要です。法律の根拠がある場合とは、所得税や社会保険料などが代表的なもの
です。「賃金控除協定」によるものは、「購買代金、社宅、寮その他の福利、厚生施設の
費用、社内預金、組合費等、事理明白なもの」について認められています(昭和27.9.20
基発675 平成11.3.31基発168)
3.本人から控除中止の申し出があった場合
前記賃金協定が締結されている場合であっても、本人から控除中止の申し出があった
場合は実際に控除するか否かは、本人の希望や申し出による必要があります。親睦会に
加入したまま控除中止は現実的ではなく、実際には親睦会の脱退を伴うこととなると考
えれます。したがって、本人から親睦会を脱退を希望し控除中止の申し入れがあった場
合には、本人の意思に従って控除を中止しなければなりません。
4.会費の返還
親睦会の行事に自分は参加しないので会費を返還してほしいと申し出があった場合はどうでしょうか。会費は個人別の積み立てではなく、親睦会全体の活動費にあてられるものですので、特別に規約で返還の定めがあれば別ですが、通常は返還する義務はありません。
一方で「親睦旅行の積み立て」という趣旨で給与天引きしているような場合は、参加しない人には返還することが必要です。親睦旅行の積み立てまで親睦会費と同じ取り扱いを説明なしに続けることは、旅行に参加できない社員にとって納得しにくいものです。事業所としては全員参加が当然である(強制的参加)と考えているような事例も見られますが、子育てや業務の関係で参加できない社員もいます。返還することを認めると参加が減ってしまうと危惧する話も聞きますが、参加が減るということは、社員は親睦旅行を望んでいないという意思表示に他なりません。せっかくの行事が社員の意思に沿わないものとならないように今一度取り扱いを見直す必要もあると思われます。
ワンポイント
親睦会に加入すること、会費は強制徴収することを当然と考えず、以下の対応をきちんとすることが必要です。
1.親睦会の規約を作成し、予算、活動計画、決算についてきちんと報告対応すること。
2.給与天引きする場合は、賃金控除協定を締結すること
3.社員採用時に親睦会の趣旨、内容、会費の給与天引きなどについて説明し、同意を得ておくこと
4.親睦会は全員が参加できるような行事をしっかり計画すること
5.旅行積み立てなどは参加できない人には返還することなど公平性の観点でどうあるべきか検討すること
◆ 北九州社会保険労務士 社会保険労務士法人九州人事マネジメント ◆
会社の経理を預かっている社員が現金を横領したことが発覚したような場合、どのように対応すればよいでしょうか。
1.刑事告訴
金銭の横領や窃盗は「刑法犯」です。したがって刑事告訴するかどうかという問題が生じます。刑事告訴するかどうかは、横領・窃盗した金銭の額や頻度、横領・窃盗した金額の返済の有無などによって判断することとなるでしょう。
2.懲戒解雇処分
(1)懲戒解雇事由該当の有無
就業規則には通常窃盗や横領の類の刑法犯は「懲戒解雇事由」として規定されている場合が多いと思われます。横領や窃盗行為は刑事罰に該当し、また、信頼関係を大きく裏切る行為となるため、通常は懲戒解雇にする場合が多いと考えられます。
懲戒処分を決定するためには次のような事実関係を確定することが大切になります。
・横領・窃盗時期、回数、金額、方法、使途
・返済の意思の有無、返済の時期、方法など
(2)顛末書の提出
本人から事実関係を説明する顛末書を提出させ、事実関係を本人が認めていることを明確にします。
(3)懲戒処分の決定
懲戒解雇とするかそれ以外の懲戒処分にとどめるのか、判断、決定します。
判断まで時間が必要な場合は「自宅」待機を命じます。自宅待機は懲戒処分としての「出勤停止」とは異なります。「出勤停止」処分としてしまうと懲戒処分を行ったこととなり、さらに別の懲戒解雇などの処分を行えなくなりますので注意してください(一事不再理)。自宅待機中は6割の休業手当を上回る賃金の支払いが必要となります。
(4)解雇予告除外認定
懲戒解雇の場合でも即時解雇するためには労基法90条の解雇予告手当の支払いが必要です。解雇予告手当の支払いをしたくない場合は労働基準監督署の「解雇予告除外認定申請」を行い、認定を受けることが必要です。労働基準監督署は本人にも事実確認を行いますので、認定まで通常1週間~2週間ほど時間がかかることとなります。
3.返済の誓約
刑事告訴や懲戒処分を決定する上で、横領金等の返済がされるかされないかは大変重要になります。
まずは返済の誓約をしっかりとさせ、返済の目途を明らかにしてください。返済されない場合などは身元保証人などと調整が必要ですが、最悪の場合損害賠償請求の民事訴訟も考えておく必要があります。(本人との間では、全額弁済されれば刑事告訴はしないが、弁済が予定通り行われない場合は刑事告訴を直ちに行うというような確認をしておくとよいでしょう。)
4.退職金の支払い
退職金規程では通常、懲戒解雇の場合は退職金を支給しない旨規定していることが多
いと思います。退職金規程にその旨の規定がなければ、本人から請求されれば払わなくてはならなくなりますので、規程の内容をよく確認しておいてください。
また、規定のある場合でも裁判例では「長年の功労を抹消してしまうほどの著しい背信行為」と認められないような事案については退職金を支払うことを命じたものもありますので、この点にも十分注意してください。
◆ 北九州社会保険労務士 社会保険労務士法人九州人事マネジメント ◆
そのような状況を知ってか知らずか、院長に「○○手当を支給してください。」「休日を増やしてください。」などことあるごとに要求を出してくる職員がいます。言っていることはもっともなことであっても、診療所の経営としてすぐに実行できないものや、人手が足りない状況があるからこそいま少し我慢してがんばってもらいたいという思いなどを理由に申し出をすぐに取り入れられないことを伝えると、決まって「それなら私はやめさせていただきます。」と答えるようです。人手が足らないから必ず院長が止めに入るという読みがあり、院長が「わかった、手当は支給するから、辞めるのは考え直してくれるね」と懇願して残ってもらったという形にしている、ネゴシエーション上手のようです。(本人はそんなことは一言も言いませんが・・・。)
1.このような社員にはどう対応すべきか
躊躇せず辞めていただくことです。このような社員は決して止めてはいけません。退職の意思表示があればその意思を直ちに受理してください。
課題や問題提起、改善要望を出すこと自体はまったく問題ありません。むしろ経営者は社員のそのような行動を望む必要があります。しかし、要望を聞き入れなければやめるという短絡的な発言はまったく別物です。辞める気もないのに辞めるという言葉を軽々しく口にする社員とは信頼関係は築けません。課題や改善事項を経営者と一緒に考えていこうという姿勢があるからこそ職場の改善は進むのです。このような社員は多分に「自己中心的な偽善者」であることが多いようです。皆のためにといいながら実は自分の処遇を良くしようということしか眼中にないのです。会社の経営や社員の処遇のことを真剣に考えている社員は「辞める」という言葉を軽々しく口にはしません。また、一度口にすればそれを撤回するような無責任なことは繰り返しません。迷わず辞めていただいてください(無理を言っていることは百も承知ですが)。
(1)余力があるうちに
社員が1人でも辞めてもらったら困るような追い込まれた状況になる前に、このような社員の気質を見抜き、早く対応することが大切です。問題とすべき言動があった場合は厳しく指導し、改善を促してください。見てみぬ振りを続けていると増長してしまいます。反発したり一向に改善が見込めないようであれば、できるだけ早く辞めていただくように話を進めていきましょう。
(2)辞めてもらったら困るという状況
今一人でも辞めてもらったら困るという事態は全力を尽くして回避しましょう。知恵を出せばなんとかなるものです。このようなときこそ助けてもらえるようなネットワークや交友関係を作っておきましょう。また求人難の状況でも求職者に選んでもらえるような魅力的な職場作り、ブランド力の向上に日頃から真剣な努力を続けましょう。
2.社員に信頼される経営者に
社員になめられたら全うな経営はできません。社員がなめきった態度を取る原因の一つとして、社員に強く反発されたら何もかも撤回してしまうような日ごろの経営者の優柔不断な言動があります。一方で信頼関係を喪失する言動としてあいまいな指示の繰り返し、一方通行的なコミュニケーション、安定しない感情などがあります。このような日ごろの言動が続くと優秀な社員はやめてしまい、なんでこんな社員がと思うような社員ばかりが残ってしまうのです。社員は経営者を写した鏡であると自戒し、自分自身の言動の反省、経営者としての資質の向上に最善の努力をすることも大切です。
◆ 北九州社会保険労務士 社会保険労務士法人九州人事マネジメント ◆
従業員を解雇したところ、紛争調整委員会から斡旋の開始の通知がきた場合、どのように対応したらよいのでしょうか
1.斡旋制度
(1)斡旋とは
平成13年に制定された「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律」で新設された制度です。都道府県労働局に窓口があり、無料で利用することができます。
斡旋とは当事者の話し合いによる解決をめざす制度で、解決を強制するものではありません。したがって、開始の通知が来ても、手続きに参加する意思がない場合は断ることも可能です。
斡旋は以下のように事案に応じて柔軟な解決を図ることを目的とする制度であり、簡易・迅速な解決や、柔軟な解決は事業所にとってもメリットがあるものですので、積極的に手続きを利用して解決を図ったほうが良い事案も多いと思われます。
(2)斡旋の進め方
(1) 解雇された社員と事業所の間に斡旋委員が入って、双方の言い分を聴取し意見を調整することとなります。弁護士や特定社会保険労務士は手続きを代理することができますので、依頼することも可能です。
(2) 斡旋手続きに応じても途中で打ち切りを申し出ることもできます。委員からの斡旋案の提示の受諾を強制されることはありません。
(3) 斡旋案を受諾した場合
裁判上の和解と同じ効力が認められます。
2.解雇した社員が「合同労組」に加入し団体交渉を求めた場合
合同労組とは、企業や産業を超えて労働者の組織化を目指す労働組合であり、個人でも加入できることが大きな特徴です。最近話題になった派遣切り、契約社員の契約打ち切りなどでかなり脚光を浴びているところです。企業内に組合がない労働者が相談頻度は間違いなく高くなってきています。
(1)原則
解雇した社員がこのような労働組合に加入し、当該労働組合から団体交渉の申し入れがあった場合は、集団的労使関係のルールが適用されますので、事業所としては労働組合法に基づき団体交渉の応諾義務があります。正当な理由がなく拒否すれば団体交渉の不当労働行為となります。
(2)解雇した社員でも応諾しなければならないか
労組法7条2項において、解雇された社員が解雇の効力を争い、社員の地位の有無を争っている場合には、社員の主張が認められた時は引き続き社員の地位を保有することとなるので、このような団体交渉の申し入れを受けなければなりません。
(3)対応
団体交渉の場所(社外の場所)、時間帯(就業業時間後)、時間(2時間以内)、双方出席者数、連絡窓口などの団体交渉のルールを取り決め、第1回目の日程を調整して交渉に入ることとなります。
◆ 北九州社会保険労務士 社会保険労務士法人九州人事マネジメント ◆
1.採用内定の法的性質
採用内定の法的性質については、(1)契約締結過程説、(2)契約予約説、(3)労働契約成立
説がありますが、大日本印刷事件(最高裁昭和54年7月20日判決)以降、新規学卒者の採用内定については、労働契約説により内定段階で既に労働契約が成立しているとする考え方が定着しています。
採否決定の段階では、採用予定者の適格性の有無に関する判定資料を企業側は十分に収集することができないことから、最終決定を留保することを認め、採用内定は企業側が解約権を留保し、かつ入社式などを就労の始期とする始期付きの労働契約であるとされています。
2.内定の取り消し
内定の取り消しは、この留保された解約権を行使することとなります。したがって、採用内定取り消し事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的にて照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られると解するのが相当とされています。
3.内定取り消し事由
(1) 卒業できなかった場合
卒業できなかった場合は問題なく取り消し事由に該当します。
(2) 既往歴が発覚した場合
内定通知書には、「入社時の健康状態が内定当事と著しく異なり就労に耐えないときは内定を取り消す」という文言を入れる場合が多く見られます。この文言にあるように既往歴があるというだけでは即内定取り消し事由とはなりません。当該既往歴が職務にどれだけの支障が生じるかどうかで判断されることとなります。業務に支障がほとんどないようなものであれば内定取り消しは厳しいでしょう。
(3) 怪我をした場合
怪我をした場合も上記(2)既往歴の発覚と同じように考えます。
(4) 資格取得できなかった場合
職務に必要な資格を取得できなかった場合は、卒業できなかった場合と同様に考えます。契約の前提として重要な条件が欠けることとなりますので、内定取り消し事由となります。
4.実務上の対応
(1) 内定時に、資格取得できなかった場合は内定取り消しとなることをはっきりと伝えておきます。入社誓約書の中にも明記します。
(2) 無資格者として、補助職などで採用する余力がある場合は、そのことについて本人と確認し、本人が同意すれば無資格者として条件決定し契約を結びます。
◆ 北九州社会保険労務士 社会保険労務士法人九州人事マネジメント ◆
1.労働安全衛生法
労働安全衛生法施行規則第61条には、「病者の就業禁止」が定められています。これによれば、「病毒伝ぱのおそれのある伝染病の疾患にかかった者については、その就業を禁止しなければならない」と規定されています。
一方で、「伝染予防の措置を講じた場合は、この限りではない」と規定され、行政解釈は「法定伝染病については、伝染病予防(現在は、感染症法)」によって予防の措置がとられるから本号の対象とならない」とされています(昭24.2.10基発第158号、昭33.2.13基発第90号)。したがって、感染症法に該当する感染症であれば、労働安全衛生法上の就業規則とは取り扱わず、感染症法上の規定に委ねるということになります。
2.感染症法
感染症法では、感染症を一類から五塁までの区分に分類しておりましたが、新たに新型インフルエンザ等感染症が追加されました。このうち一類から三類までは従来より
国が入院勧告や就業制限といった措置をとることができるとされていますが、新型インフルエンザ等感染症に罹患した場合にも同様に、国が入院勧告や就業制限といった措置をとることができることとされました。
一類 エボラ出血熱 クリミア・コンゴ出血熱 痘そう 南米出血熱 ペスト マールブルク熱 ラッサ熱
二類 急性灰白髄炎 結核 ジフテリア 重症急性呼吸器症候群(病原体がコロナウイルス属SARSコロナウイルスであるものに限る) 鳥インフルエンザ(H5N1)
三類 コレラ 細菌性赤痢 腸管出血性大腸菌感染症 腸チフス パラチフス
四類 鳥インフルエンザ(H5N1を除く)他
五類 インフルエンザ(鳥インフルエンザ及び新型インフルエンザ等感染症を除く)
他
新型インフルエンザ等感染症
3.インフルエンザに罹患した社員への対応
(1)鳥インフルエンザ
感染症法二類に分類されていますので、感染症法に基づいた就業禁止措置がとられます。この措置に基づき社員を自宅待機させた場合は、賃金又は休業手当の支払いは不要となります。
(2)通常の季節性インフルエンザ
感染症法五類に分類されますので、感染症法に基づいた就業禁止措置はとられません。この場合に、就業規則の規定や業務命令により自宅待機させた場合は、事業所の都合による休業となり、賃金又は休業手当の支払いが必要となります。
(3)新型インフルエンザ
4月28日、WHOにおいて、インフルエンザのパンデミック警報がフェーズ4に引き上げられたことを受けて、政府は、豚インフルエンザ(H1N1)を、感染症法上の「新型インフルエンザ等感染症」として位置づけました。これにより、国が、入院勧告や就業制限といった措置をとることができる感染症となりました。
したがって、国が発生地域の企業に対して新型インフルエンザの症状の認められた従業員などの入院勧告や就業制限を行うこととなっていますから、この措置により、新型インフルエンザの感染者や感染の疑いのある従業員を自宅待機させた場合には、賃金又は休業手当の支払いは不要となります。
国がこのような措置を講じていないにも関わらず、会社で独自に自宅待機を命じた場合は、上記通常のインフルエンザと同様に賃金又は休業手当の支払いが必要となります。
◆ 北九州社会保険労務士 社会保険労務士法人九州人事マネジメント ◆
1.退職勧奨と解雇の違い
社員を辞めさせる方法として一般的に「退職勧奨」、「解雇」の2つの手段が考えられます。この2つの手段はどうちがうのでしょうか。
(1)退職勧奨
退職勧奨は特定の社員に対する会社からの労働契約解除の申し込みです。応じるかどうか(退職するかどうか)は社員の自由意志にまかされ、社員が合意した場合にはじめて退職となります。ポイントは「社員本人の自由意志」が担保されているという点です。社員が応じなければそれまでです。ここが解雇とは決定的に違う点です。
(2)解雇
本人の意思に関係なく一方的に労働契約を打ち切るものです。退職勧奨のように本人の意思は問いません。ただし、解雇には「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は」権利濫用として無効とされます(労働契約法16条)。さらに整理解雇の場合は次の要件を満たすことが必要であるとされています(整理解雇の4要件)。
<人員整理の必要性 人選の合理性 解雇回避の努力 手続きの適正>
2.退職勧奨の違法性
裁判所は、退職勧奨は合意の退職の申し込みであり、合意退職は整理解雇の4要件を
満たす必要はなく、また申し込みが突然なされたからといって違法とはならず、理由を
告げなかったとしても不当ということはできないとしています(大阪地裁平成12年9月
8日判決)。退職を強要するのではないので原則として制約がないということです。ただ
し、退職勧奨において、退職することを説得するための手段、方法が「社会的相当性を
欠く場合は、それは違法とされます。
○社会的相当性を欠く退職勧奨
・強迫、詐欺に類する行為があった場合
・暴力行為があった場合
・仕事を取り上げるなどの嫌がらせ行為があった場合
・退職する意思がないのに執拗に説得を繰り返す場合 など
(2)違法な退職勧奨
違法な退職勧奨による退職は、「無効」もしくは「取り消される」こととなります。
3.社員本人が退職を強要されたと主張する場合
社員が退職を強要されたと主張するのは、上記のように「社会的相当性」を欠くよう
な退職勧奨を行っている可能性があります。会社にはそのような意図はなくても言い方
によって、あるいはそのときの状況によって社員には「退職を強要された」と取られる
可能性があります。
(1)強要ととられないように以下の点に十分注意して説得することが大切です。
・懲戒解雇にならないような事由に関し懲戒解雇などをほのめかしながら説得しない
・大きな声でどなったり、個室に長時間閉じ込めて説得しない
・退職を拒否しているのに執拗に呼び出し説得しない
(2)その他の注意事項
・退職勧奨に応じなかった場合は次のステップで「解雇」するのかしないのか、そこまで考えておくこと。
・説得は社員に「録音」されている可能性があることを念頭においておくこと
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ところで、例えば当年分の11日を付与されたと同時に、前年分の未使用日数との合計日数をすべて連続して消化した後に退職日を設定するような年次有給休暇申請と退職願いを提出する社員がいた場合、この申請についてはすべて認める必要があるのでしょうか。
1.よくある経営者の主張
多くの経営者が、「新しく付与された年次有給休暇はその後1年間に取得する分として付与されているのではないか、したがってその後の在籍期間に応じて按分して付与日数を減じてよいのではないか」という主張をされます。その主張は正しいのでしょうか。答えは「ノー」です。
年次有給休暇は、その付与された日数は、原則その後1年間(繰越を入れると2年間)
どの時点でも取得することが可能です。したがって、その後半年しか在籍しない社員は
2分の1しかとれない、3カ月しか在籍しない社員は12分の3しか取れないなどとい
う制限はまったくありません。
会社としては、「1年間で使う日数として付与されているのではないか。納得がいかな
い」という趣旨の発言をされたくもなるでしょうが、これは感情論にすぎません。法的には経営側には取得を制限する権限はなく、「時期変更権」が認められているに過ぎません。この時期変更権も退職日以後に時期変更することは現実にはできないため、退職日までの取得希望年次有給休暇は認めざるを得ないということになります。
もちろん、年次有給休暇を取得することをもって「懲戒処分」に付すことも、年次有
給休暇の取得が正当な権利行使であればできないこととなります。
2.対応
日ごろからの社員教育を徹底し、社員がそのような取得の仕方をしないように、社会
人としての常識を身につけさせておくことが大切です。
また、そのようなとり方をするのは、多分に会社に対する腹いせ的な意味合いがあり
ますので、日ごろからの労務管理のあり方に問題がないか見直すことも必要です。
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不正行為の疑いが持たれている社員が退職届を提出してきました。期限は提出日から2週間後となっています。不正行為が確認されれば就業規則では懲戒解雇に該当するものとなります。一方で就業規則には退職届は退職日の1カ月前までに提出すること、会社の承認があるまでは業務の従事することがあわせて規定されています。この社員の退職願を拒否できるでしょうか。
1.原則
会社が拒否した場合この社員が退職を強行すると、社員は労働契約の一方的解約(民法627条)をしたこととなります。一方的解約の場合は、会社が退職届を受け付けない(不受理)としても、あるいは1カ月後でないと認めないということを伝えても、2週間が経過すれば退職の効力が生じます。(就業規則の1月という規定は訓示的な意味合いしかもたないことになります。)したがって、2週間の期間進行を中断させるような手段はないということになります。
2.対策
2週間以内に不正行為の実態を明らかにし、退職日より前に懲戒解雇を決定することが必要です。そのために正確かつ迅速な調査を行う必要があります。あわてて、拙速な調査のため誤った事実確認をしないように注意しなければなりません。
また、就業規則において懲罰委員会などの手続が定められている場合には、その手続を経ないで行った処分は、違法な手続と判断され無効とされますので注意してください。
3.退職金の取り扱い
懲戒解雇が間に合わずに退職が成立した場合は、退職金を支払わなければならないのでしょうか。原則として退職金の支払いは退職金規程の規定の仕方によります(以下の例参照)。したがって退職金規程の内容をしっかりと点検し、必要な場合は規定の改定を行うことが大切です。
(ケース1)「懲戒解雇の場合は退職金の一部又は全部を支給しない。」
⇒ 懲戒解雇できない場合は退職金を支給しなければなりません。
(ケース2)「懲戒解雇の場合又は懲戒解雇事由が存在する場合、退職金の一部又は全部を支給しない。」
⇒ 懲戒解雇できなくても懲戒解雇事由がある場合は、退職金の一部又は全部を支給しないことが可能となります。
(ケース3)「退職金支給後に懲戒解雇事由が発覚した場合は、不当利得として退職金を返還しなければならない」
⇒ 退職金を支払った後でもこのような規定があれば不当利得返還請求が可能となります。規定がなければ取り戻すことができません。
◆ 北九州社会保険労務士 社会保険労務士法人九州人事マネジメント ◆
懲戒処分として10日間の出勤停止処分を受けている社員から「出勤停止期間中に配置されている休日も自宅謹慎しており、休日として休んでいないので、出勤停止処分終了後に代休がないとおかしい」と言ってきました。このような代休は与えないといけないのでしょうか。
1.出勤停止処分とは
(1)出勤停止処分の考え方
出勤停止とは、制裁として社員の就労を一定期間停止することをいいます。一般的に出勤停止期間中の賃金は支払わない取り扱いがとられます。
出勤停止に係る法律上の制限はなく、就業規則の規定内容が根拠となり、それが労働契約の内容となります。就業規則の規定内容が妥当であることと、実際の適用において権利濫用、公序良俗に反しなければ有効な処分となります。
(2)出勤停止期間の長さ
大正15年12月13日に出された工場法下の行政通達では、7日を出勤停止の限度としていました(大15.12.13発労71)。裁判例では7日間の出勤停止を無効としたものから3カ月の出勤停止を有効としたものなど事案によって異なっています。実務的には7日~14日の事例が多く見られます。
(3)出勤停止処分は自宅謹慎まで義務付けられるか
懲戒処分として出勤停止を命じる場合、さらに自宅謹慎(外出禁止)を命じることは、基本的人権である「人身の自由」(憲法18条)を奪うことになり、認められないと考えられています。
出勤停止を命じる場合は、あくまで就労を禁止する(=給与を減額する)処分であり、自宅謹慎を命じることはできないと考えておくことが必要です。
(4)出勤停止処分中にアルバイトをしていたことが発覚した場合
上記のように自宅謹慎を命じることはできませんので、出勤停止命令違反として処分することはできないと考えられます。そこで、懲戒事由の中に兼職禁止を規定し、兼職禁止違反に基づいた懲戒処分を行うことで対処する必要があります。
2.出勤停止処分期間中の休日の考え方
出勤停止処分中期間中に休日が含まれている場合は、その休日はどうなるのでしょうか。
出勤停止処分はそもそも出勤予定日対して発せられるものです。
そうすると、就労義務がない休日には出勤停止命令が下せないものとなります。
例えば「10月1日より14日間の出勤停止を命ずる」という懲戒処分の通知では、その期間中に含まれる休日が2日あった場合に、その休日を含んで14日なのか、あるいは休日を除いて14日なのかがはっきりしないこととなります。
争いを防ぐためには「10月1日より休日を除いて14日間の出勤停止を命ずる」というような通知内容にする必要があります。
法的な解釈は以上ですが、冒頭にあるような代休要求発言がでることは、懲戒処分の原因を真に反省しているとは到底考えられませんので、今後も当該社員の言動を注視しておくことが必要でしょう。
◆ 北九州社会保険労務士 社会保険労務士法人九州人事マネジメント ◆
インターネットが普及し自身の作成するブログや2ちゃんねるなどにいろいろな書き込みを自由にすることができるようになりました。その中で「会社の経営はいいかがげんだ」「同僚はバカばっかりだ」「給料が安い」などと会社のことを書き込むことがあった場合は、どう対応したらよいでしょうか。
1.基本的な考え方
原則として憲法で保障された言論の自由がありますが、書き込みの内容が事実に反するもの、あるいは機密情報を漏洩するなど、企業秩序を乱す場合は、懲戒処分の対象とすることが考えられます。
(1)懲戒の対象と考えられる書き込み内容
事実に反するもの
批判内容が社会的に相当な範囲を逸脱して不穏当な誹謗中傷となるもの
機密情報を漏洩するもの
上司・同僚の個人攻撃をしているもの など
(2)就業規則の規定
就業規則に懲戒の根拠となる以下のような規定を整備します。
「正当な理由なく、会社の名誉又は信用を損なう行為をしないこと」
「インターネット上に、会社や会社の社員に関する事項を掲載しないこと」 など
(3)具体的な事例
日本経済新聞社事件(東京地裁平成14年3月25日判決)では、取材源の開示など会社方針に反する書き込みをしたこと、社外秘とされている事項を記載したこと、不穏当な表現で会社を誹謗中傷したことを理由に出勤停止14日間の懲戒処分を有効としています
2.損害賠償の請求
内容によっては会社の信用を失墜させたことを理由として損害賠償請求をすることも考えられます。
甲社事件(東京地裁平成14年9月2日判決)では、名誉毀損の不法行為の成立を妨げるものではないとし、インターネット上では、情報の伝達が容易かつ即時に行われ、その伝播力は大きいため、文書など比して名誉、信用をより大きく損なう危険性を有しているとした上で、会社に対して100万円、社長、専務に対してそれぞれ30万円の損害賠償をするように命じました。
3.書き込みの削除
名誉毀損に該当するような場合は、掲示板の運用ルールに基づいて掲示板の管理者に当該文言の削除を求めることができます。
また、自社にホームページがある場合は、書き込みの内容は「事実でない」と公式にアナウンスするなどの手だても考える必要があります。
◆ 北九州社会保険労務士 社会保険労務士法人九州人事マネジメント ◆
仕事を頼むと返事をしない、自分の考えと違っていることを言った相手に激昂する、急に泣き出す、注意すると何が悪いのかと食って掛かるなど、これまではそのような態度が見られなかったのに最近特に気になる、ちょっと精神的な病気になっているのではないだろうかと思われる社員にはどう対応したらいいのでしょうか。
1.上記言動の基本的な捉え方
上記言動は、責任性・協調性に欠けるものであり、仕事を円滑かつ正常に進めることができない重要な阻害要因となります。したがって、早急に改善を促すことが必要な問題と考えなければなりません。
2.最初にすべきこと
まずは、冷静に本人と話し合いを持つようにします。最初から腫れ物を触るようにして正面からの対応を避けることとならないようにします。また、病気であるという先入観で対応することにならないように注意します。
(対応者) 職場の責任者
(話し方) 最近気になる行動を指摘し、原因を探ります。まずは本人の話を聞くことをしっかりと行います。
否定したり、感情的に注意・指導したりすることがないようにします。
本人が冷静に話ができるようであれば具体的な問題点を指摘し、反省及び改善を促します。
3.改善を促したのに改善されない場合
改善を促したのに改善されない場合は、再度注意・指導を行います。何度も繰り返す
ようであれば、懲戒処分になる場合も考えられます。
周囲との関係が悪化したり、業務の正常な運営が著しく阻害されたり、支障が継続し、
今後も改善の見込みがないようであれば「普通解雇」も可能と考えれられます。
4.病気であることが推測される場合
(1)基本
病気であることが疑われる場合は、心療内科などの専門家の受診を進めます。受診を義務付けるためには、就業規則に受診を命ずる旨の根拠規程を置いておくことが必要です。規程があれば業務命令として命ずることができることとなります。
しかし、最初から業務命令では本人が反発することが想定されますし、円滑に進めるためには本人の理解を得ることが大切です。趣旨を説明し、本人が納得するように努力してください。必要に応じて家族の協力を求めることも検討します。
(2)本人が受診を了解した場合
診断書の結果に基づいて対応を検討します。
就業困難で休職が必要であれば休職を検討します。
特に問題がなければ上記3により通常の指導を行います。
(3)本人が受診を拒否した場合
受診を拒否しかつ態度にも改善が見られない場合は、正常な労務の提供がない、あるいは、業務の正常な運営を阻害するということを厳しく指導し、改善が見られない場合には「普通解雇」を検討します。
指導時に本人にも解雇になることがありうることも理解させるようにします。
1.懲戒処分
故意又は過失により紛失した場合であれば、当然就業規則の懲戒規定に基づいた処分として懲戒処分を行うことは可能です。
2.会社から社員に対する損害賠償の根拠
(1)債務不履行責任(民法415条)
社員は雇用契約に基づいて会社に損害を与えないようにすべき義務を負っています。この義務に違反したものとして、債務不履行責任に基づいた損害賠償責任を追及することができます。
(2)不法行為(民法709条)
故意又は過失により他人の権利を侵害した場合は、不法行為に当たるとして、その規定に基づいて責任を追及することができます。
いずれの場合も、社員にその紛失について故意又は過失があることが必要であり、また会社が損害を求めうるのは、相当因果関係の範囲にある損害、つまり通常予見しうる損害に限られます。
3.全額の損害賠償を求められるか
外部に顧客情報を持ち出す場合には紛失の可能性は常にあり、情報が流出する危険性
は容易に想定できます。そのことに対して会社として紛失防止対策が全くとられていな
い中で紛失し情報が流出した場合、被害者である会社にも損害を拡大させたことに対す
る過失があるとして、過失相殺の規定(民法418条、722条2項)によって賠償額は減
じられる可能性が高くなります。
4.会社が関係者に損害賠償を行った場合、社員に損害を求められるか
(1)会社の損害賠償の根拠
会社は本人とは別に社員の使用者として使用者責任を負っています(民法715条)。
この場合、会社は社員に対して損害額を求めることができます(求償権)。
(2)社員に求償しうる範囲
判例では「その事業の性格、規模、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若
しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の
公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度」に限定されています。
(茨城石炭商事事件 最高裁一小 昭51.7.8判決)
この事件では従業員に請求できる損害賠償額を4分の1に制限しています。実務的にも会社が負担した額の数割程度に制限されるのが通常です。
◆ 北九州社会保険労務士 社会保険労務士法人九州人事マネジメント ◆
採用時には本社しかなく転勤は発生していなかったところに、事業を拡大するため他県に新しい事業所を設立し転勤が必要となり社員に転勤を命じたところ、「採用時の労働条件として提示された就業場所と違うので承諾できない。」と言ってきました。このような場合に転勤させることはできるでしょうか。
1.配転命令の根拠
会社が社員に対して転勤を命令する根拠は、労働契約にあります。就業規則に転勤に関する規定があれば「包括的合意」があると解され、会社はこれに基づき転勤を命ずることができます。一般的に「会社は業務の都合により転勤又は職場の変更等の異動を命じることがある」などと規定します。
就業規則に上記のような転勤命令権の記載がない場合は社員の同意を得て転勤を実現することとなります。
2.労働契約の変更
就業規則に規定がなく社員の個々の同意を得ていては業務に支障を来すことが考えられます。そのため就業規則の変更を行うことが必要となります。
就業規則の変更は社員の同意が前提ですが、同意が得られない場合でも変更に「合理性」があれば会社が一方的に変更することも認められています。
転勤命令権は、事業上の必要がありるもので一般的に合理性は認められると考えられます。
3.転勤命令の権利濫用
転勤命令権が認められてもその行使が権利濫用になる場合は、転勤命令は無効となります。
権利濫用の判断は、(1)業務上の必要性、(2)労働者の不利益の程度の勘案で決まります。
裁判例では(1)については「余人をもって替えがたいほどの高度の必要性は不要である」とし、(2)については単身赴任を余儀なくされる場合であっても「通常甘受すべき程度」としています。この結果、転勤命令が無効となる例は特段の 事情がある場合に限られることとなっています。
4.本件転勤の命令について
就業規則に転勤の記載があれば命令の根拠はあることとなります。就業規則は将来の転勤の可能性を予定しており、「採用時の労働条件として提示された就業場所と違うので承諾できない。」という社員の主張は、原則として理由とならないと考えられます。
しかし実務上では一方的な命令よりも社員の同意を得て行うことが適当です。社員に何か不利益となるような事情があるのか、転勤にかかる会社の支援制度をどう考えているか、など、当該社員としっかりと話し合い、納得してもらうことが大切です。
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部下に対して、「給料泥棒」「能なし」「馬鹿野郎」「いつ辞めても代りはいくらでもいるぞ」など暴言を吐く管理職に対しては、どのような対応が必要でしょうか。
1.パワーハラスメントの教育徹底
一昔前には鬼のような上司がもてはやされていましたし、今もそのように考えている企業や経営者もあります。しかし、部下に対して愛情もなくただ自分の感情を思いのままにぶつけるだけで、部下の人格を否定するような言動を取る管理者は、「管理者」という立場や役割を勘違いしていると言わざるをえません。このようなパワーハラスメントが日常的に行われると部下が精神疾患に罹患したり、退職することにつながり、人的、金銭的損失は測り知れません。企業として責任をもって管理職教育を行う必要があります。
2.企業の責任
(1)不法行為責任(民法715条)を負う事に。
上司のパワーハラスメントが原因で部下がうつ病になったりした場合、使用者責任として被害者に対する不法行為責任(民法715条)を負うことになります。
また労働契約法5条では労働者への安全配慮義務として「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と定められており、安全配慮義務違反による損害賠償責任等が問われることとなります。
(2)業務起因性が認められると「労災」の適用に。
上司のパワーハラスメントが原因で部下がうつ病になったりした場合、業務起因性が認められると「労災」が適用されることとなります。
3.配置転換の可否
従業員を採用する場合に職種・職務内容・勤務地が限定されている場合を除き、企業は人事権の内容として配転命令権を有しています。配転命令権は権利濫用でなかれば有効とされます。
したがって、上司がたびたび部下に暴言を吐き、部下が精神疾患に罹患したり休職した場合には、良好な職場環境を保持するために配置転換を行う必要があります。また、配置転換により他の職場でも同じことが繰り返される恐れがあったり、実際に繰り返されている場合には、管理職としての適性や資質に欠けるものとして役職の降職も検討しなければなりません。
4.懲戒処分の可否
(1)就業規則の規定整備
懲戒処分を行うに当たっては、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておく必要があります。(フジ興産事件 平15.10.1最高裁判決)したがって、パワーハラスメントを定義し、それに該当する場合は懲戒事由になることを明示しておきます。明示規定がない場合には「職場の風紀秩序を乱す行為」なとの規定があればそれに含めて考えることもできますが、明示するように改正を行うことが望まれます。
(2)懲戒処分の妥当性
懲戒処分の根拠規定がある場合であっても、懲戒処分が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念用相当であると認められない場合は懲戒権の濫用として無効となります。(労働契約法15条)
上司がたびたび暴言を吐き、その結果部下がうつ病になったり、休職に追い込まれてしまった場合は、上司に対する懲戒処分は可能と考えられます。
ただし、それまで企業として当該上司に注意をまったくしていなかった、見て見ぬふりをしていたというような状況があると、懲戒処分の妥当性に影響を与えることも考えられます。日ごろから管理者教育をしっかりと行い、問題がある上司には個別に注意・指導を行い改善を促すことが大切です。
◆ 北九州社会保険労務士 社会保険労務士法人九州人事マネジメント ◆