労務ニュース《2023年7月号》
◆ 目 次 ◆
◆ 詳 細 ◆
●精神障害の労災認定基準にカスハラ、病気や事故の危険性が高い業務への従事を新たに追加
7月4日、厚生労働省の「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」は、近年の社会情勢の変化等を踏まえ、精神障害の労災認定の基準に関する報告書を公表した。
報告書では、①業務による心理的負荷評価表の見直し、②精神障害の悪化の業務起因性が認められる範囲を見直しが挙げられている。
①に関しては、具体的出来事に「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」(いわゆるカスハラ)のほか、「感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事した」を追加。さらに、心理的負荷の強度が「強」「中」「弱」となる具体例を拡充(パワーハラスメントの6類型すべての具体例の明記等)
②に関しては、悪化前おおむね6カ月以内に「特別な出来事」がない場合でも、「業務による強い心理的負荷」により悪化したときには、悪化した部分について業務起因性を認める。
厚生労働省では、この報告書を受けて、精神障害の労災認定基準を改正し、迅速適正な労災補償を行っていくとしている。
https://www.mhlw.go.jp/content/11201000/001117056.pdf
報告書では、①業務による心理的負荷評価表の見直し、②精神障害の悪化の業務起因性が認められる範囲を見直しが挙げられている。
①に関しては、具体的出来事に「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」(いわゆるカスハラ)のほか、「感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事した」を追加。さらに、心理的負荷の強度が「強」「中」「弱」となる具体例を拡充(パワーハラスメントの6類型すべての具体例の明記等)
②に関しては、悪化前おおむね6カ月以内に「特別な出来事」がない場合でも、「業務による強い心理的負荷」により悪化したときには、悪化した部分について業務起因性を認める。
厚生労働省では、この報告書を受けて、精神障害の労災認定基準を改正し、迅速適正な労災補償を行っていくとしている。
https://www.mhlw.go.jp/content/11201000/001117056.pdf
●2023年度の最低賃金引き上げ議論スタート
6月30日、厚生労働省の中央最低賃金審議会で2023年度の最低賃金の議論が始まった。物価高騰が続く中、政府が掲げる「全国加重平均1000円」を実現できるかが争点になる。
最低賃金は毎年夏に中央最低賃金審議会が引き上げ幅の目安を決定し、それを踏まえて都道府県ごとに引き上げ額を決めて、10月以降、順次適用される。
現在の最低賃金は全国加重平均で961円で上げ幅は過去最大の31円増だった。今年1000円を達成するには39円の大幅な引き上げが必要となる。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_33951.html
(参考)令和4年度地域別最低賃金改定状況
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/minimumichiran/index.html
最低賃金は毎年夏に中央最低賃金審議会が引き上げ幅の目安を決定し、それを踏まえて都道府県ごとに引き上げ額を決めて、10月以降、順次適用される。
現在の最低賃金は全国加重平均で961円で上げ幅は過去最大の31円増だった。今年1000円を達成するには39円の大幅な引き上げが必要となる。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_33951.html
(参考)令和4年度地域別最低賃金改定状況
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/minimumichiran/index.html
●2022年度の精神障害の労災認定は710件で過去最多。脳・心臓疾患の労災認定では「過労死ライン」を下回る事案が増加
6月30日、厚生労働省は、2022年度の「過労死等の労災補償状況」を公表した。
仕事が原因でうつ病などの精神障害を発症し、労災請求したのは2683件(前年度比337件増)で過去最多。そのうち労災認定を受けたのは710件(同81件増)で、統計を始めた1983年度以降の過去最多を4年連続で更新。
原因別では、パワハラが147件と最多。以下、「悲惨な事故や災害の体験、目撃をした」89件、「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」78件と続く。
過重労働による脳・心臓疾患で労災認定されたのは194件(同22件増)となり、うち死亡(過労死)は54件(同3件減)となった。
認定されたケースの時間外労働は、発症前2~6カ月間の月平均で「60時間以上80時間未満」が最も多かった。
労災認定では月80時間の「過労死ライン」が重視されるが、2021年9月に認定基準が改正されて、不規則勤務など労働時間以外の要因も考慮するよう明示されたことで認定の幅が広がったとみられる。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_33879.html
(参考)血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準に係る運用上の留意点について(令3.9.14 基補発0914第1)
https://www.mhlw.go.jp/content/001040124.pdf
仕事が原因でうつ病などの精神障害を発症し、労災請求したのは2683件(前年度比337件増)で過去最多。そのうち労災認定を受けたのは710件(同81件増)で、統計を始めた1983年度以降の過去最多を4年連続で更新。
原因別では、パワハラが147件と最多。以下、「悲惨な事故や災害の体験、目撃をした」89件、「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」78件と続く。
過重労働による脳・心臓疾患で労災認定されたのは194件(同22件増)となり、うち死亡(過労死)は54件(同3件減)となった。
認定されたケースの時間外労働は、発症前2~6カ月間の月平均で「60時間以上80時間未満」が最も多かった。
労災認定では月80時間の「過労死ライン」が重視されるが、2021年9月に認定基準が改正されて、不規則勤務など労働時間以外の要因も考慮するよう明示されたことで認定の幅が広がったとみられる。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_33879.html
(参考)血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準に係る運用上の留意点について(令3.9.14 基補発0914第1)
https://www.mhlw.go.jp/content/001040124.pdf
●政府税制調査会、退職金の優遇課税の見直しを答申
6月30日、首相の諮問機関である政府税制調査会は、同じ会社に長く勤めるほど退職金への課税が優遇される現行制度の見直しを検討するよう求める中期答申を岸田首相に提出した。
退職金への課税の見直しは、6月16日に政府が閣議決定した「骨太の方針2023」と「新しい資本主義実行計画」に盛り込まれていたもの。
現行制度は、退職金から控除額を引いた金額の2分の1に所得税と住民税が課せられる。控除額は勤続20年まで毎年40万円、20年超では毎年70万円が積み上がる。
政府税調は答申の中で「現行の課税の仕組みは、勤続年数が長いほど厚く支給される退職金の支給形態を反映したものとなっていますが、近年は、支給形態や労働市場における様々な動向に応じて、税制上も対応を検討する必要が生じてきています」と指摘している。
https://www.cao.go.jp/zei-cho/shimon/5zen27kai_toshin.pdf
退職金への課税の見直しは、6月16日に政府が閣議決定した「骨太の方針2023」と「新しい資本主義実行計画」に盛り込まれていたもの。
現行制度は、退職金から控除額を引いた金額の2分の1に所得税と住民税が課せられる。控除額は勤続20年まで毎年40万円、20年超では毎年70万円が積み上がる。
政府税調は答申の中で「現行の課税の仕組みは、勤続年数が長いほど厚く支給される退職金の支給形態を反映したものとなっていますが、近年は、支給形態や労働市場における様々な動向に応じて、税制上も対応を検討する必要が生じてきています」と指摘している。
https://www.cao.go.jp/zei-cho/shimon/5zen27kai_toshin.pdf
●厚生労働省、永年勤続表彰金における「報酬等」の判断要件を示す
厚生労働省では、健康保険法、厚生年金保険法にかかる標準報酬月額の定時決定および随時改定の事務手続きの考え方を「標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集」として公表している。
6月27日に公表された今回の改正(令5.6.27 事務連絡)では、「報酬・賞与の範囲について」の部分に永年勤続表彰金について、以下の事例が追加された。
(問3) 事業主が長期勤続者に対して支給する金銭、金券又は記念品等(以下「永年勤続表彰金」という。)は、「報酬等」に含まれるか。
https://www.mhlw.go.jp/hourei/oc/tsuchi/T230629T0010.pdf
6月27日に公表された今回の改正(令5.6.27 事務連絡)では、「報酬・賞与の範囲について」の部分に永年勤続表彰金について、以下の事例が追加された。
(問3) 事業主が長期勤続者に対して支給する金銭、金券又は記念品等(以下「永年勤続表彰金」という。)は、「報酬等」に含まれるか。
https://www.mhlw.go.jp/hourei/oc/tsuchi/T230629T0010.pdf
●トイレの使用制限は違法。最高裁が性的少数者の職場環境を巡って初判断を示す
生物学的な性別は男性だが、性同一性障害と診断され普段は女性として生活する経済産業省の職員に対する省内での女性トイレの使用制限を巡り、最高裁第三小法廷は7月11日に、使用制限の撤廃要求に応じなかった人事院の判定を「違法」とする判決を言い渡した。
性的少数者の職場環境を巡って最高裁が判断を示したのは初めて。2審の東京高裁(令3.5.27判決)では、制限の合理性を認めて原告側敗訴となったが、原告側の逆転勝訴が確定した。
最高裁判決では、裁判官5人全員一致の法廷意見のほかに、裁判官5人全員が性自認を尊重すべきとの立場で補足意見を付けたのは異例。
判決の概要
①職員はトイレ利用の制限で日常的に相応の不利益を受けている
②職員は戸籍上の性別変更に必要な性別適合手術は受けていないが、女性ホルモンの投与を受けるなどし、トイレの利用でトラブルが生じることはない
③人事院の判定は、他の職員への配慮を過度に重視し、職員の不利益を不当に軽視するもので、著しく妥当性を欠く。裁量権の逸脱・乱用で、違法
④判決は不特定多数が使用する施設のトイレ利用の在り方に触れるものではない
なお、6月23日から「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」(LGBT理解増進法)が施行されている。
同法6条では、事業主に対して、性的マイノリティーに対する理解の増進に向けた普及啓発・就業環境の整備・相談機会の確保、国や地方自治体の理解増進施策への協力が努力義務となっている。
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/191/092191_hanrei.pdf
(参考)特別寄稿 補足意見から紐解く経済産業省事件最高裁判決(丸尾拓養:丸尾法律事務所 弁護士)
https://www.rosei.jp/readers/article/85294
性的少数者の職場環境を巡って最高裁が判断を示したのは初めて。2審の東京高裁(令3.5.27判決)では、制限の合理性を認めて原告側敗訴となったが、原告側の逆転勝訴が確定した。
最高裁判決では、裁判官5人全員一致の法廷意見のほかに、裁判官5人全員が性自認を尊重すべきとの立場で補足意見を付けたのは異例。
判決の概要
①職員はトイレ利用の制限で日常的に相応の不利益を受けている
②職員は戸籍上の性別変更に必要な性別適合手術は受けていないが、女性ホルモンの投与を受けるなどし、トイレの利用でトラブルが生じることはない
③人事院の判定は、他の職員への配慮を過度に重視し、職員の不利益を不当に軽視するもので、著しく妥当性を欠く。裁量権の逸脱・乱用で、違法
④判決は不特定多数が使用する施設のトイレ利用の在り方に触れるものではない
なお、6月23日から「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」(LGBT理解増進法)が施行されている。
同法6条では、事業主に対して、性的マイノリティーに対する理解の増進に向けた普及啓発・就業環境の整備・相談機会の確保、国や地方自治体の理解増進施策への協力が努力義務となっている。
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/191/092191_hanrei.pdf
(参考)特別寄稿 補足意見から紐解く経済産業省事件最高裁判決(丸尾拓養:丸尾法律事務所 弁護士)
https://www.rosei.jp/readers/article/85294
●再雇用の基本給格差は、検討不足として審理差し戻し―名古屋自動車学校事件(最高裁一小 令5.7.20判決)
名古屋自動車学校の教習指導員だった男性2人が、定年後の再雇用を巡って仕事内容は同じなのに、基本給が定年前の約16万~18万円から約7万~8万円に下がったのは不当だとして、定年前の賃金との差額を支払うよう求めた訴訟の上告審判決で、7月20日に最高裁一小は同じ業務内容で基本給が定年時の6割を下回るのは違法とした2審判決を破棄し、審理を高裁に差し戻した。
1審(名古屋地裁 令2.10.28判決)と2審(名古屋高裁 令4.3.25判決)は、同じ業務内容で基本給が定年退職時の6割を下回ることは、旧労働契約法20条(現・パートタイム・有期雇用労働法8条)が禁じた不合理な待遇格差に当たるとし、自動車学校に対して差額の計約625万円を2人に支払うよう命じた。
今回の判決では、2審は基本給の年功的性格しか検討していないと指摘した上で、職務内容や職務遂行能力に応じて金額が決まる要素のほか、労使交渉の具体的経緯も考慮して不合理かどうかを判断すべきとした。
正社員か否かによる「不合理な格差」を禁じた旧労働契約法20条に基づき、最高裁が基本給について判断したのは初めて。しかし、基本給の格差が不合理かどうかについての結論は明示せず、判断は差し戻し審に持ち越された格好となった。
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=92208
1審(名古屋地裁 令2.10.28判決)と2審(名古屋高裁 令4.3.25判決)は、同じ業務内容で基本給が定年退職時の6割を下回ることは、旧労働契約法20条(現・パートタイム・有期雇用労働法8条)が禁じた不合理な待遇格差に当たるとし、自動車学校に対して差額の計約625万円を2人に支払うよう命じた。
今回の判決では、2審は基本給の年功的性格しか検討していないと指摘した上で、職務内容や職務遂行能力に応じて金額が決まる要素のほか、労使交渉の具体的経緯も考慮して不合理かどうかを判断すべきとした。
正社員か否かによる「不合理な格差」を禁じた旧労働契約法20条に基づき、最高裁が基本給について判断したのは初めて。しかし、基本給の格差が不合理かどうかについての結論は明示せず、判断は差し戻し審に持ち越された格好となった。
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=92208